

酸素濃縮装置コラム
column【第1回】酸素濃縮装置とは

酸素濃縮装置は在宅酸素療法(HOT:後述)で広く使用されている酸素供給装置です。
本記事では酸素濃縮装置の役割や仕組み(第2回後述)、酸素濃縮器等を必要とする疾患、在宅酸素療法との関係について解説します。
酸素濃縮装置とは
酸素濃縮装置とはどのような装置か
「酸素濃縮装置」は酸素供給装置の一種で、病気などにより十分な酸素を体内に取り込めなくなった人に、高濃度の酸素を供給する装置です。
私たちのまわりにある空気は78%が窒素で、酸素は21%しか含まれていません。酸素濃縮装置は特殊な吸着材を用いて空気中の窒素を選択的に除去し、高濃度の酸素を供給します。医療用酸素濃縮装置では一般的に90%以上の酸素濃度が維持されるよう設計されています。
酸素濃縮装置には医療機関や在宅酸素療法で使用される医療用機器のほか、一般用途向けの製品も存在します。本記事では主に医療用の酸素濃縮装置について解説します。
酸素濃縮装置を使用する目的とは
酸素濃縮装置を使用する目的は、体内に必要な量の酸素を取り込み、低酸素血症の改善を図ることです。低酸素血症とは、血液中の酸素量が低下した状態をいい、主に肺や心臓の病気が原因で引き起こされます。健康な人であれば自発呼吸によって必要な酸素を体内に取り込むことができますが、慢性呼吸器疾患や心疾患を患っている人は、十分な酸素を体内に取り込めなくなる場合があります。
低酸素血症が続くと息切れ、頭痛、めまいなどの症状が現れるほか、放置すると肺や心臓に重大な負担をかけてしまいます。酸素濃縮装置を用いた酸素療法により、低下した血中酸素濃度の改善が期待されます。
では、実際にどのような疾患の患者さんが酸素濃縮装置等を必要とするのでしょうか。
次の章では代表的な疾患について紹介します。
在宅酸素療法(HOT)との関係
在宅酸素療法とは
「在宅酸素療法」は病気などにより十分な酸素を体内に取り込めなくなった人が、酸素濃縮装置などの酸素供給装置を使用して、自宅で酸素吸入を行う治療のことをいいます。Home Oxygen Therapyの頭文字をとって「HOT(ホット)」と呼ばれることもあります。
全国の在宅酸素療法の患者数は2023年の調査(業界紙)で18.2万人といわれ、患者数は増加傾向にあります。患者数の増加には高齢化や慢性呼吸器疾患患者の増加などが影響していると考えられています。
在宅酸素療法は先に説明した疾患などによって、医師が「常時の酸素供給が必要」と判断した場合に施行されます。
医療保険が適応となるのは
・高度慢性呼吸不全例
・肺高血圧症
・慢性心不全
・チアノーゼ型先天性心疾患
の患者さんです。疾患ごとの細かな適応基準はこちら(独立行政法人環境再生保全機のHP)をご覧ください。
医師によって在宅酸素療法が必要と判断された場合、自宅で使用する酸素供給装置や酸素流量、吸入時間などが指示されます。また、患者さんは定期的な診察を受けながら、パルスオキシメーターを用いて血中酸素飽和度(SpO₂)などを確認する必要があります。
在宅酸素療法は、低下した血液中の酸素量を補うことで、日常生活をより安全に送るための重要な治療法です。適切な管理のもとで継続することで、息切れなどの症状の軽減や活動範囲の維持、生活の質(QOL)の向上につながることが期待されています。その在宅酸素療法において、中心的な役割を担う酸素供給装置が酸素濃縮装置です。
在宅酸素療法と酸素濃縮装置
在宅酸素療法で最も使用される酸素供給装置が酸素濃縮装置です。「呼吸不全による在宅ケア白書2024」によると98%の患者さんが在宅酸素療法において設置型または携帯型の酸素濃縮装置を使用していることがわかりました。(携帯用酸素ボンベの併用を含む)
酸素濃縮装置は在宅酸素療法における中心的な酸素供給装置として利用されており、自宅で安定した酸素療法を継続するために重要な役割を担っています。
酸素濃縮装置等を必要とする主な疾患
COPD
日本語では慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)といい、主には喫煙などを原因に、気管や気管支、肺胞が慢性の炎症を起こし、歩行時や階段などでの息切れ、咳、痰などの症状を引き起こします。また風邪をひくと長引いたり、繰り返したりします。かつて肺気腫や慢性気管支炎といわれた病気は、現在ではCOPDに含まれる病態として扱われています。
COPDの患者数は40歳以上の約12人に1人、推定530万人いるといわれています。(NICE スタデイ2001)
しかし実際に医療機関を受診している人は約38.2万人で、多くの人が適切な診断や治療を受けていないのが現状です。(厚生労働省調査:令和5年)
病気が進行すると血液中の酸素量が低下し、在宅酸素療法が必要となる場合があります。
間質性肺炎
間質性肺炎は、細菌やウイルスが肺の中で炎症を起こす一般的な肺炎とは異なり、肺胞の壁や周辺組織(間質)が厚くなって硬くなる病気です。50代~70代に多いとされています。
間質性肺炎を起こす原因には、関節リウマチや強皮症などの膠原病、カビや鳥の羽毛、粉塵・石綿などの吸引、薬剤やサプリメントの副作用などがありますが、原因不明の「特発性間質性肺炎」が最も多く、喫煙者に多く見られます。自覚症状としては痰を伴わない咳、日常生活での呼吸困難です。呼吸困難は主には坂道や階段の上り下りなどで起こりますが、病気が進行してくると安静時にも起こるようになります。
肺の線維化が進行すると酸素を取り込みにくくなり、在宅酸素療法が必要になることがあります。
肺高血圧症
肺高血圧症は、心臓から肺へ血液を送る「肺動脈」の血圧が異常に上昇する病気です。原因ごとに1群~5群に分かれており、第1群の肺動脈性肺高血圧症 (PAH)と第4群の慢性血栓塞栓性肺高血圧症 (CTEPH)は国の指定難病となっています。
肺高血圧症は初期段階では自覚症状が乏しく、気づいたら進行してしまっている場合もあります。心臓に負担がかかることで息苦しさや体のだるさ、足のむくみ、失神、喀血など
様々な症状があらわれます。肺高血圧症を治療せずに放置すると、さらに肺高血圧と心不全が進行し、命を落とす危険性もあります。
病状によっては低酸素血症を伴い、在宅酸素療法が行われることがあります。
慢性心不全
1日におよそ10万回血液を送り出す心臓の働きが低下し、全身に十分な血液を送り届けられない状態を「心不全」といいます。慢性心不全はその状態が長期にわたって持続している病気です。
慢性心不全の原因は、虚血性心疾患、心筋症、弁膜症、不整脈、先天性心疾患などの病気です。主な症状は、動悸、息切れ、呼吸困難、手足や顔のむくみ、体重増加などで、重症になると腹部や胸に水が溜まったり、唇や皮膚の色が青紫色になったりします。また治療しないままに放置すると、急激に悪化する場合もあります。
重症化すると全身への酸素供給が低下し、酸素療法が必要となる場合があります。
酸素ボンベや液体酸素装置との違い
在宅酸素療法で使用する酸素供給装置には、酸素濃縮装置のほかに「酸素ボンベ」と「液体酸素装置」があります。ここでは酸素濃縮装置との違いを説明いたします。
酸素ボンベとは
酸素ボンベとは金属製の容器に高い圧力で酸素を充填したものです。バッグやカートを使用し持ち運びが可能で、電気を必要としないため停電時にも使用できます。酸素ボンベは様々なサイズがあり、酸素の使用状況によって選択することができます。ただし、サイズが大きいと使用時間は長くなっても、重量も大きくなるため注意が必要です。
また「呼吸同調器(デマンド式酸素供給装置)」という患者さんが息を吸うタイミングで酸素を供給する機器をボンベに接続することができます。呼吸同調器を使用すればボンベの酸素を節約でき、使用時間も延ばすことも可能です。
酸素ボンベは外出時にも使用できることから酸素濃縮装置と併用される方が少なくありません。ただし、電気があればいつでも酸素を供給できる酸素濃縮装置と異なり、酸素が空になってしまうと交換が必要です。使用時には酸素の残量を常に確認しておくことが大切です。
酸素ボンベは電源を必要とせず外出時や災害時にも使用できる一方、酸素がなくなると交換が必要になります。
液体酸素装置とは
液体酸素装置とは、液体の状態の酸素を容器に入れ、少しずつ気化させて気体の酸素を供給する装置です。空気から酸素のみを取り出す酸素濃縮装置とは異なり、ほぼ100%の酸素が供給可能です。液体酸素は設置型の親器に充填されており、室内ではそこから酸素を吸入します。また親器から液体酸素を充填できる子器があり、家の中で移動する時や外出時に持ち運びすることができます。
液体酸素装置の良さは酸素ボンベ同様に電気を必要としないことです。停電になっても使用できますので災害時も安心です。また子器は小型軽量で携帯性に優れ、酸素ボンベに比べて比較的長時間使用できます。
反対に液体酸素装置のデメリットは、親器を月に数回交換する必要がある点です。交換は供給業者が行うため、液体酸素がなくなる数日前には連絡をして届けてもらわなければなりません。また使用にあたっては、親器から子器への充填操作も必要となるため、事前に操作方法を理解しておくことが大切です。そして飛行機に持ち込むことは禁止されています。
液体酸素装置は頻繁に外出する人や停電時でも確実に酸素吸入を行いたいという人の選択肢の一つとなります。
酸素濃縮装置のメリット
ここまで酸素濃縮装置の特徴、酸素ボンベや液体酸素装置との違いを説明してきました。酸素濃縮装置は、空気中の酸素を濃縮して供給する仕組みのため、酸素供給の補充を必要とせず、自宅で安定した酸素療法を継続しやすいことが大きな特徴です。また、設置型だけでなく携帯型の機種も普及しており、日常生活や外出時にも酸素療法を継続しやすい環境が整っています。
酸素濃縮装置を使用するメリットは以下の点があげられます。
・通常の家庭用電源で使うことができる
・電気が使用できれば連続して酸素供給が可能
・設置型と携帯型があり、外出時にも使用できる
・一部の携帯型機種は航空機内での使用に対応している
・日常的な管理やメンテナンスが比較的容易
・在宅酸素療法で広く利用されている
| 項目 | 酸素濃縮装置 | 酸素ボンベ | 液体酸素装置 |
|---|---|---|---|
| 電源 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 酸素供給 | 空気から生成 | 充填酸素 | 液体酸素を気化 |
| 連続使用 | 可能 | 残量に依存 | 補充に依存 |
| 外出 | 携帯型あり | 可能 | 可能 |
| 停電時 | バックアップ必要 (酸素ボンベ等) | 使用可 | 使用可 |
では実際に酸素濃縮装置はどのような流れで導入されるのでしょうか。最後に、在宅酸素療法開始までの一般的な流れについて解説します。
酸素濃縮装置はどのように導入されるのか
前述したように医療用の酸素濃縮装置は主に在宅酸素療法の治療のために使用されます。在宅酸素療法を行うかどうかの判断は医師が行います。
① 医師による診断
慢性呼吸不全などで低酸素血症の疑いのある患者さんに対し、動脈血酸素分圧(PaO₂)や血中酸素飽和度(SpO₂)の測定、必要に応じて6分間歩行試験などを実施し、在宅酸素療法が必要かどうかを判断します。
② 処方内容の決定
各種検査の結果に基づいて医師が、必要な「酸素流量」や「使用時間」を決めます。必要な酸素流量は、「安静時」「運動(労作)時」「睡眠時」などで異なりますので、それぞれの状況に合わせた酸素流量が指示(処方)されます。
その他、自宅の電源環境や設置スペース、家族や介護者によるサポート体制なども確認されます。
③ 酸素供給装置の事業者が機器を設置
医師の指示を受けて、酸素供給装置の事業者が患者さんの自宅に酸素濃縮装置を設置します。また、機器の使い方や日常的な管理方法について説明を行います。患者さんは医師の指示に基づいて在宅酸素療法を開始します。
④ 定期的な診察
在宅酸素療法では定期的な診察を受けながら、症状や治療状況の確認が行われます。導入後もかかりつけ医のところで、症状や血中酸素飽和度(SpO₂)などを確認し、必要に応じて酸素流量や使用時間が見直されます。
このように、酸素濃縮装置は医師の診断と指示のもとで導入され、在宅酸素療法を支える重要な医療機器として利用されています。適切な管理のもとで継続的に使用することで、患者さんの日常生活を支える役割を担っています。


